子どもがいるご夫婦の離婚に、ADR調停をお勧めする理由

「簡易版の裁判」ではありません

ADR(裁判外紛争解決手続)とは、裁判によらずに紛争の解決を目指す手続きです。「裁判より手軽な方法」というイメージを持たれることも多いのですが、単なる「簡易版の裁判」ではありません。裁判とはまったく異なる目的と哲学を持った、独立したプロセスです。

「公正な判断」と「関係の維持」

裁判は法と証拠に基づいて公正な判断を示す制度ですが、避けられない副作用があります。「相手の主張に対してどう反論するか」を繰り返す裁判のプロセスは、当事者同士の対立を深め、関係をさらに悪化させてしまうことがあるのです。

裁判所の役割は、法と証拠に基づいて公正な判断を示すことにあります。判決後の当事者関係の維持そのものを主目的とする制度ではありません。

一般の裁判では、当事者同士が判決後に関係を続ける必要があるケースは多くありません。しかし、子どもがいるご夫婦が離婚する場合は、子どものために、離婚後も両者が一定の関係を続ける必要があります。

そのため、公正な判断が得られたとしても、裁判の過程で関係がさらに悪化すると、離婚後に被る不利益のほうが大きくなってしまうこともあります。そしてその不利益は、子どもにも及びます。

子どもがいるご夫婦の離婚では、法的に何が正しいかだけでなく、離婚後に親として最低限の協力関係を維持できるかどうかが重要になるのです。

家族の争いを裁く難しさ

夫婦の間には、それまで長い時間を共有してきた結果、積み重なった無数の出来事や因果関係が絡み合っています。「どちらがどのような責任を負うべきなのか」を公正に決めるためには、その複雑な経緯や歴史をすべて解きほぐす必要があります。それは、どんな裁判官にとっても容易なことではありません。

また、離婚に至る原因はさまざまで「どちらも悪くない」あるいは「どちらも悪い」ということも珍しくありません。しかし裁判では、何らかの形で責任の所在を決めなければならない場面が出てきます。こうした構造は、当事者が「正しく裁かれた」と感じにくい結果につながることもあります。

また家庭裁判所の調停も、本来は話し合いによる解決を目指す手続きですが、結果として「どちらが正しいか」を主張し合う場になってしまうことがあります。

「子どものため」はきれいごとではない

もちろん、裁判所の判断を求める人には、裁判を起こす権利があります。ディメリットも承知のうえで、ご自分の思いを主張して裁判所の判断を仰ぎたいという人もいらっしゃるでしょう。

その一方で考えていただきたいのが、子どもの立場です。

離婚は、夫婦関係の終わりですが、親子関係の終わりではありません。親子関係を断ち切らない限り、離婚後も、共同養育や子どもとの親子交流(いわゆる面会交流)、養育費の支払い、学校や医療に関する決定など、元夫婦が一定の連絡を保たなければならない場面は何年にもわたって続きます。

しかし、必要最小限であっても、裁判で徹底的に争った相手と連絡を取るのは簡単ではありません。法的には解決しても、人間関係に深刻な傷が残ることがあるからです。そしてその傷は、子どもにも伝わってしまうことが多いのです。

そして「子どもの立場の重視」には、モラル以上の意味があります。離婚を決意したご夫婦でも「子どもの幸せ」については合意の余地が残されていることがあるからです。子どもの立場を意識することが、合意形成の足場になるのです。

納得した合意は守られやすい

当事務所のADR調停では、財産分与や養育費、親子交流に関する一般的な離婚制度や、離婚後の子どもの養育(監護の分掌)に関する説明を行ったうえで、合意書作成に必要な整理を行い、お二人の話し合いが円滑に進むよう支援します。しかし、法的判断を示したり、いずれか一方に有利な法的助言を行ったりすることはありません。

弁護士や裁判所の判断が入らないことに、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし一方で、第三者が下した法的判断に従うよりも、お二人で「これで進めよう」と納得できる合意を形成することを望む方もいらっしゃるでしょう。ADR調停は、そのような希望を持つ方々にとって、有力な選択肢の一つです。もっとも、ADR調停を始めるには、相手方にも「ADR調停に参加して冷静に話し合おう」という気持ちになっていただくことが前提となります。

ADR調停で合意した内容は、合意書として文書化します。ご希望に応じて、公正証書にすることも可能です。自分たちで話し合って決めた合意は、当事者の納得に基づく分、その後も履行されやすい側面があります。養育費の支払いや親子交流の実現は、合意形成のプロセスへの納得度と深く関わっています。

当事務所が重視しているのは、離婚後に実際に守られ、運用できる合意を作ることです。

行政書士がADR調停を担う理由

行政書士は、訴訟の代理人となることができません。これは一見すると制約のように思えますが、ADR調停においては強みに変わります。

離婚の話し合いが主張の応酬になりがちな背景には、関わる専門家が「その後の裁判」の可能性を視野に入れていることがあります。裁判で有利になる主張を意識するあまり、目の前の合意よりも、将来起こり得る裁判での勝敗が優先されてしまうことがあるのです。

行政書士は訴訟代理を前提としない分、合意形成を支えることに重心を置いて関わります。その意味で、合意による解決を望むご夫婦の話し合いを支援するうえで、適した立場にあるといえます。

また、行政書士の業務には「権利義務に関する書類の作成」があります。当事務所では、話し合いを成立させることだけでなく、その合意内容を後に解釈をめぐって争いが起きにくい形で文書化することも重視しています。

こうした合意文書の作成は、将来の争いを防ぐためのいわゆる予防法務に属するもので、行政書士が得意とする分野です。裁判が主に「過去」の事実関係や経緯をめぐる争いであるのに対し、行政書士の視点は「将来」に向いています。この将来思考は、離婚後の生活設計について合意を形成するADR調停の考え方とも親和性があります。

「誰が悪いのか」は探らない

当事務所のADR調停では、家族心理学の考え方を取り入れます。

家族心理学では「家族関係に問題が生じた場合に『誰が悪いのか』を探っても解決につながらないことが多い」と考えます。家族関係は「円環的な因果関係」によって成り立っており、誰が原因であるかを特定することが本質的に難しいからです。

それよりも、共通の目標に向けて何ができるか、比較的うまくいっていることをどう強化するか、という問いに焦点を当てます。

この考え方をADR調停に応用することにより、過去の責任の追及ではなく、離婚後に最低限必要な平穏な関係をどう築くかという前向きなテーマを、話し合いの中心に置くことができる可能性が高まります。当事務所では、「どちらがどれだけ悪いか」を細かく争うことよりも、離婚後に必要となる連絡、親子交流、費用分担、意思決定をどう設計するかに重点を置いて、話し合いを進めます。

ADR調停は夫婦の仲直りを目指すものではありません。家族心理学のアプローチを意識しつつも、ゴールはあくまで「離婚の合意書」を作ることにあります。そして、離婚後は必要最小限の関係を保ちつつ、互いに必要以上には関わらないようにすることが重要です。

一方で、関係修復の可能性があるご夫婦には、ご希望に応じて、家族カウンセリング機関のご紹介を行うこともあります。

お受けできないケース

ただし、ADR調停ではどんな案件でも扱えるわけではありません。そもそも、夫婦の双方に参加する意思がない場合は、ADR調停を始めることができません。

また、DV(家庭内暴力)、子の連れ去り、児童虐待といった問題がある、またはその疑いがあるケースでは、当事務所はご相談をお受けしていません。強い支配や萎縮がある状態では、対等な立場で話し合いをすること自体が難しいからです。

これらの事情がある場合には、安全確保を最優先にしつつ、法的・専門的な対応が必要になります。該当する可能性がある方は、弁護士や専門機関へのご相談を強くお勧めします。

向く方と向かない方

当事務所のADR調停は、どちらか一方の代理人として相手を説得する場ではありません。双方が合意可能な着地点を探るための中立的な手続です。したがって、法的な白黒を明確に争いたい方には、適した方法とはいえません。そのような場合には、必要に応じて弁護士等の専門家への相談をお勧めすることがあります。

一方で、相手と争うことよりも、離婚後に向けて合意を作りたい方や、子どもの親として、最低限の関係は維持する責任があると考える方、養育費や親子交流、学校・医療に関する意思決定などについて将来の運用まで見据えて整理したいとの意向を持つ方にとって、ADR調停は適した方法です。

離婚は、子どもにとって「家族の形が変わる」出来事です。当事務所は、その変化をできるだけ穏やかなものにするために、新しい家族のあり方を考え、合意という形にしていくための場でありたいと考えています。